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・小説観、表現観


 先入観というものがある。
 小説を書くにあたって先入観は重要なんじゃないかと思う。先入観というか、作者なりの小説観。
 小説観というのは絶対に読みにも執筆にも影響することで、少なくとも読みについては小説観が凝り固まってしまうとマズい。そして読みというのは自分の書く小説に対して発揮されるべきものなので、書きに関しても凝り固まってしまうのはマズいと思う。小説なんて一口に言っても作品は千差万別だ。固まってしまった小説観にしがみついて、自分の読んだことのない小説を否定しまうのは、損だろう。

 小説を書くにはある程度固まった小説観が要るのではないかと思う。小説を読む場合には、既に完成された小説が存在しているのだから、読めるし、読んでいく中で(意識的、無意識的とかいう区分はともかくとして)読者なりの小説観が形成されていく。
 読書量を増やすほど、読書の幅を広げれば広げるほど、小説観は深まったり複雑になったりする方向に行くだろう。作品によっては逆の方向、つまり、今までの小説観が否定されたり、より単純に考えられるようになったりもするだろうけど。とにかく、人によってマチマチだろうが、ある程度の読書をこなすと小説観が固まってくる。
 小説を書くには、その自分なりの小説観を使うしかない。しかない、と断定的限定的な言い方をするのは勇み足な気がするけど、とにかく、小説観を使うことになるのは間違いないだろう。小説観が複雑だったり多岐に渡ったりしていると、小説観全てを動員することがもの凄く難しくなり、ある程度の取捨選択が迫られるようになる。そして書いていく内に自分の小説観が誤っているような気がしていったり、逆に確信を深めたりすることもあるだろう。
 自分の元の小説観、変化していく小説観が常に正しいということはないだろうが、完全に間違いということもないだろう。判断の指標は「その小説観で小説を書くにしろ読むにしろ、楽しめるか」という一点で十分だろうし、小説観なんかを持つ、小説観を意識するような人間は過去に小説を楽しんだことが絶対にあるはずで、そういう経験がある以上、完全に間違った小説観なんて生まれるはずがない。

 そのようなわけで、小説を書く、書こうという前に自分なりの小説観を書き出しておく作業は有用なはずだ。
 そしてそれ以上に、きっと、小説以外の表現に対する感じ……例えばマンガ観とか、美術観とか、建築観とかを持っていることが大切なんじゃないかと思う。
 保坂和志の言葉を引用すると、

----引用開始----

(省略)小説を書き出す前は、ジャズやロック、現代音楽など、音楽のことを考える時間がとても長かった。理由は、最初のうちはもちろんそういう音楽が好きだったからだが、小説を真剣に書こうと思い始めた頃から、音楽を聴いたり、音楽について考えることが、そのまま小説のことを考えることになった。
 これは音楽を小説のメタファーにしたり、音楽を小説に置き換えたりするということではない。音楽のことを考えるのと並行するように小説のことも考えているという言い方をしてもいいけれど、大事なのは音楽を簡単に小説のヒントにしようなどとは考えないことで、音楽は音楽として考える。そうしているうちに、「表現」ということにまで考えが伸びていき、それが結果的に小説を考えることにもなっていく。
(書きあぐねている人のための小説入門/保坂和志 40p)

----引用終了----

 他にも保坂和志は考えることとして、サッカーや動植物、昆虫などを挙げている。
 同じく保坂和志の言葉だが、新人とは「小説に何か新しい面白さを持ち込めた人」のことらしい(前田にはそれこそが文学であるという感じがする)
 実際、小説以外の畑から小説にやってきた人の中に、強烈に面白い作品を書く人が何人もいる。特に演劇畑の人たちにもの凄いのがいる。前田の狭い読書範囲でだが、岡田利規、前田司郎、古川日出男がそうだ。古川日出男は元演劇人だが(尤も、最近は戯曲を発表しようとしているらしい)、岡田利規、前田司郎は現役で演劇人である。岡田利規の「三月の5日間」なんかは、もう、演劇から無理矢理小説に直したような歪みが感じられて、非常に面白い。

 とにかく、優先すべきというか、やるべきは、小説観を明確にすることではなくて、他の表現形態についての感じを明確に持つことなのではないかと思うのだ。
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