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・自分は何になっているのだ
 最近は演劇を観に行く機会が多かった。
 友人の出演したフリバティ団の第二回公演『P』、フェスティバル/トーキョーで行われた五反田団の「迷子になるわ」とロジェ・ベルナットの「パブリック・ドメイン」を観に行った。

リンク>フリバティ団
リンク>フェスティバル/トーキョー

 三つの比較として面白かったのが、舞台の形体。そのまんま、舞台として使われる領域の物理的な話である。
『P』は建物の一階と二階の両フロアを使い、更に観客席の傍を役者が通って行ったりした。
「迷子になるわ」はどちらかといえば普通の舞台。しかし役者が動く部分がかなり広かった。奥行きがある。演劇の舞台の大きさといえば学校の体育館のステージ上を思い浮かべてしまう前田としてはそれだけで新鮮だった。
「パブリック・ドメイン」の舞台は、公園。屋根付きのステージも使われたが、屋外だ。

 最も特殊だと思われるのは「パブリック・ドメイン」。舞台が屋外だということではなく、屋外である理由が、観客の不在にある。つまり「パブリック・ドメイン」は観客全員が役者として動くことになる演劇だった。
 観客兼役者はヘッドホンを渡され、そこから聞こえる指示に従って舞台(公園)を動きまわる。指示と書いたが、実際には質問と回答だ。質問に対してイエスならば、例えば右の方へ動く、例えば手を上げる……といった具合である。
 質問が進んでいくと、イエスに対する指示に意味ありげなものが紛れてくる。
「舞台監督がいます。青いパーカを受け取ってください」

 質問に答えていくうちに観客兼役者は服の色で分類され、分類によって警官や囚人などと呼ばれ、そして自分たちが何をしているかも分からないながら、明らかに集団の一部として何かを演じていることが分かってくる。

 この演劇のポイントは視点にあるのではないかと前田は予想している。
 演劇を観るとき、観客は普通、外からその舞台上の全体を俯瞰する形になると思うのだが、今回ではもちろんそんなことにはなっていない。自分自身が役者となっているし、しかも台本も何もなくヘッドホンから聞こえる声に従っているだけだ。俯瞰するのではなく中から見る視点しか持てない。
 じゃあ俯瞰の視点がないのが面白いのかといえばそういうことではない。普通の演劇は俯瞰だから、観客兼役者は俯瞰の視点を持とうとする意識が残っている。想像することだって可能だ。
 この俯瞰する(しようとする)視点と中からの視点が同時にあるということ、これが面白かった。対立する概念の両方をまとめて呑み込んで別の領域に思考を伸ばす……難しいことであり重要なことだろう(古川日出男氏も対立の概念をまとめて呑み込むことの重要性を話していた)。

 また、この俯瞰/中からという対立は、個人/集団という対立と対応しているようにも思える。
 これら対立になっている概念の間には、大きな断絶がある。
 終盤、ヘッドホンから質問ではなく、観客兼役者の名前を直接呼ぶ場面があった。自分は呼ばれなかったのだが、呼ばれた人は相当驚いたのではなかろうか(単に驚くという表現では足りなかったのではないか)。いきなり集団から個人になったのだから(構成・演出を行ったロジェ・ベルナットは、この個人の名前を呼ぶことよって場がバイオレンスに傾く、というようなことを言っていた)。
 この演劇を演じながら俯瞰できたとしたら、その瞬間も名前を呼ばれるのと同じ衝撃がくるかもしれない。

 個人になるということで面白かったのがラストである。
 最後はスクリーンにミニチュアの人形たちが何かやっている場面(それは明らかに、観客兼役者が行ってきた行動と同様だ。しかし暴力的な何事かとしか前田には分からなかった)がコマ送りで映し出される。
 その後、キャスト一覧が出てくる。観客兼役者の名前全てがずらっと表示されるのだ(ヘッドホンを借りる際、観客兼役者は名前をスタッフに渡している)。
 たぶん、しかし確信があるのだが、キャスト一覧が表示されているとき、観客兼役者は全員、自分の名前を探したに違いない。


 俯瞰の視点/中からの視点、またヘッドホンから聞こえてくる声に従うなどから前田はこの劇が人生の比喩になると思ったのだが、一緒に参加した友人は社会的な意味での世界の比喩と捉えたらしい。
 友人と同じものを観賞すると異なった意見がでてくるのが良い感じである。
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